旗本と大名はどちらが偉いのか—どちらも将軍の直臣、でも同格ではない。石高・官位・江戸城の席、役職で逆転する力関係と、二千七百石の小栗上野介の立ち位置

江戸城の広間から退出する幕臣(イメージ)

2027年NHK大河ドラマ『逆賊の幕臣』(2027年1月10日放送開始/主演・松坂桃李)の関連記事です。▶ 大河『逆賊の幕臣』特集に、関連記事とキャスト一覧をまとめています。

旗本も大名も、将軍に直接仕える家来、つまり「直臣」です。だから旗本の家来も大名の家来も、将軍から見れば家来の家来、「陪臣」になります。

そう考えると、旗本と大名、とくに徳川家と縁の薄い外様大名とは、同じ格だったのではないか。そんな疑問がわいてきます。大河ドラマ『逆賊の幕臣』の主人公・小栗忠順は、二千七百石の旗本でした。その小栗は、大名と比べてどのくらいの立場にいたのでしょうか。石高、官位、江戸城での席、そして役職から見ていきます。

大河ドラマ『逆賊の幕臣』では、松坂桃李さんが主人公の小栗忠順を演じます(主演、2025年3月3日発表)。

目次

旗本と外様大名は同格なのか?—先に答え

同格か同格ではありません。身分としては、一万石以上の大名が、一万石未満の旗本より上とされました
どちらも直臣そのとおりです。そのため旗本は、大名の家臣(陪臣)よりは格式が上でした。たとえ大名の家臣が一万石を超える禄をもっていても、です
逆転する場面勘定奉行や町奉行など重い役に就いた旗本は従五位下に叙され、官位では小さな藩の大名と並びました
外様・譜代徳川家との関係による区分です。外様でも加賀の前田家などは、旗本どころか多くの大名より上の扱いでした
小栗の立ち位置二千七百石の旗本。勘定奉行などを務め、従五位下・上野介。官位では小藩の大名と同じ位でした

大名・旗本・御家人のちがい

まず、言葉を整理しておきます。辞典類の定義をまとめると、次のようになります。

  • 大名:将軍に直属する武家のうち、一万石以上の領地をもつ者。幕末にはおよそ二百六十〜二百七十家ありました。
  • 旗本:将軍に直属する武家のうち、一万石未満で、将軍にお目見え(直接会うこと)ができる者。江戸中期の享保七年(1722年)には五千二百人ほどいました。
  • 御家人:将軍に直属するが、お目見えができない者。同じ年に一万七千人あまりいました。

旗本と御家人をあわせて「直参」と呼びます。大名は直臣ではありますが、ふつう直参には含めません。

そして、大名や旗本の家来は、将軍から見ると家来の家来なので「陪臣」と呼ばれました。「又者」「又家来」ともいいます。

なぜ「同格」ではないのか

旗本も大名も将軍の直臣という点では同じです。けれども、一万石という線を境に、大名と旗本ははっきり分けられていました。

たとえば山川出版社の日本史小辞典には、旗本が勘定奉行や町奉行などの重職に就くと従五位下に叙されて「大名と同等の格式」になる、という趣旨の説明があります。裏を返せば、ふつうの旗本は大名より下だった、ということです。

大名は自分の領地を「藩」として治め、多くの家臣を抱えました。旗本の多くは江戸に住み、幕府の役職を務めて暮らしました。領地の大きさも、抱える家来の数も、大名とは比べものになりませんでした。

ただし、大名の家臣よりは旗本が上

一方で、ご質問の「どちらも直臣だから、その家来は陪臣」という考え方は、格式を考えるうえで大事なポイントです。

平凡社の百科事典マイペディアは、大名は直臣でもその家臣は、禄が一万石を超える者であっても将軍に対しては陪臣であり、直臣である旗本のほうが格式が高かった、という趣旨を書いています。

つまり、加賀藩の家老のように一万石を超える禄をもらう家臣でも、将軍から見れば陪臣です。数百石の旗本のほうが、格式の上では上でした。石高の多さと身分の高さが、そのまま一致しないところが江戸時代の面白さです。

▶ 「主人公・小栗忠順の生涯」の記事

官位で見ると—重職の旗本は小藩の大名と並ぶ

大名と旗本の上下を見るもう一つの物差しが、朝廷から与えられる官位です。

  • 一般の大名:従五位下。たとえば『忠臣蔵』の浅野内匠頭も従五位下でした。
  • 有力な大名:国持の大名や長く在任した大名、老中などは従四位下。島津家・伊達家は従四位下から従四位上、前田家は正四位下まで進みました。
  • 旗本:ふだんは無位無官です。お目見え以上で無位無官の者は「布衣」と呼ばれる格もありました。ただし勘定奉行や町奉行などの重い役に就くと、従五位下に叙されて「○○守」などを名乗りました。この格を「諸大夫」といいます。

つまり、重い役に就いた旗本は、官位の上では小さな藩の大名と同じ位に並んだのです。

江戸城の席で見ると

江戸城に登ったとき、大名は家の格に応じて決まった部屋(殿席)に控えました。上から大廊下、溜間、大広間、帝鑑間、柳間、雁間、菊間縁頬の順です。

  • 大廊下:御三家や、前田家など特別な家
  • 溜間:井伊家、会津松平家、高松松平家など
  • 大広間:四位以上の大名
  • 帝鑑間:三河以来の譜代の家
  • 柳間:五位の外様大名など
  • 雁間・菊間縁頬:取り立てられた譜代大名や、二万石以下で城をもたない大名

一方、旗本は家ではなく役職に応じて部屋が決まりました。寺社奉行、町奉行、勘定奉行、大目付、遠国奉行などは「芙蓉間」に詰めました。外国奉行も芙蓉間詰めで、遠国奉行より上の席とされています。

殿席は時代によって変わることもあるので、ここでは大まかな目安として受け取ってください。

役職で見ると—力関係は逆転する

身分では大名が上でも、幕府の政治の現場では話が変わります。

  • 外様大名は幕政に加われなかった:前田・島津・伊達・毛利のような大大名でも、外様は原則として老中や若年寄など幕府の中枢の役には就けませんでした。
  • 老中・若年寄は譜代大名:幕府の最上層は、譜代大名が担いました。
  • 実務の要職は旗本:町奉行、勘定奉行、外国奉行など、江戸の町や幕府の財政、外交を動かす役は、旗本から選ばれました。
  • 大目付:大名や役人の動きを見張る役で、旗本が就きました。もっとも時代が下るにつれて、名誉職に近い役になっていきます。

幕府の財布を握る勘定奉行は、日本全国の幕府領の年貢や、貨幣の鋳造まで扱いました。小さな藩の大名よりはるかに大きな力を動かしていた、と言ってよいでしょう。

大名並みに扱われた旗本、大名になった旗本

旗本のなかには、大名に準じる扱いを受けた家もありました。

  • 高家:朝廷との儀式を担う家で、官位は従四位下・侍従から従四位上・少将にまで進みました。多くの大名より高い官位です。
  • 交代寄合:領地に住み、大名と同じように参勤交代をした旗本で、譜代大名並みの待遇を受けました。
  • 寄合:三千石以上で役に就いていない旗本です。

また、加増されて一万石に届き、大名になった旗本もいます。町奉行で知られる大岡忠相は、寺社奉行となって大名並みの待遇を受け、のちに一万石の大名になりました。田沼意次も旗本から一万石を与えられて大名となり、老中にまで上りつめています。

二千七百石の小栗忠順はどこにいたのか

では、小栗忠順の立ち位置を整理してみます。

  • 身分:二千五百石の旗本の家を継ぎ、のちに二百石を加えられて二千七百石。一万石には遠く、身分は旗本です。
  • 家の格:小栗家は三河以来の旗本で、家としての格式は高い家でした。家の歴史は小栗忠順の石高は二千七百石で紹介しています。
  • 官位:従五位下に叙されて豊後守、のちに上野介を名乗りました。官位の上では、小さな藩の大名と同じ位です。
  • 役職:目付、外国奉行、勘定奉行、町奉行、軍艦奉行、陸軍奉行並などを歴任しました。とくに勘定奉行には何度も就き、幕府の財政を動かしました。歩みは小栗忠順の役職一覧にまとめています。
  • 家来:小栗家にも自分の家臣がいて、彼らは将軍から見れば陪臣でした。詳しくは小栗家の領地・権田村とはで取り上げています。

身分では小藩の大名より下、官位では同じ、役職の力では上。小栗は、そんな幕末の旗本の典型であり、その頂点にいた一人でした。横須賀製鉄所という国家規模の事業を動かしたのが、一万石にも満たない旗本だったことは、江戸幕府という組織の特徴をよく表しています。

まとめ

  • 大名も旗本も将軍の直臣だが、一万石を境に身分は分かれ、大名が上だった。
  • 大名の家臣は将軍から見て陪臣で、禄が多くても旗本より格式は下だった。
  • 重い役に就いた旗本は従五位下となり、官位では小藩の大名と並んだ。
  • 外様・譜代は徳川家との関係による区分で、外様の大大名は旗本よりはるかに上の扱いだったが、幕政には加われなかった。
  • 小栗忠順は二千七百石の旗本で、従五位下・上野介。勘定奉行として、小藩の大名をしのぐ力を動かした。

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小栗忠順のゆかりの地をめぐる

小栗のゆかりの地は、東京・横須賀・埼玉・群馬に集まっています。姉妹サイト「日本の歴史旅ガイド」で、都内から回るモデルコースを紹介しています。

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2027年NHK大河ドラマ

『逆賊の幕臣』大河ドラマ特集

放送日・キャスト28人と相関・あらすじ・見どころから、主人公・小栗忠順の生涯とゆかりの地の現地写真まで、1ページで徹底解説しています。

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参考資料

コトバンク(デジタル大辞泉、日本大百科全書〈ニッポニカ〉、世界大百科事典、百科事典マイペディア、精選版日本国語大辞典、山川日本史小辞典、ブリタニカ国際大百科事典の「大名」「旗本」「御家人」「直参」「陪臣」「布衣」「芙蓉の間」「外国奉行」「町奉行」「外様大名」「若年寄」「高家」「交代寄合」「寄合」「大岡忠相」「田沼意次」)、imidas「時代劇用語指南」(山本博文、「大名殿席」「大名官位」「勘定奉行」「町奉行」「大目付」)、千代田区観光協会、群馬県立図書館の小栗上野介資料。殿席は時代によって変わることがあります。

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