| 長鯨丸 | |||
| 藩名 | 江戸幕府 | ||
| 藩主 | 徳川慶喜 | ||
| 船種 | 輸送船 | ||
| 機関 | 蒸気外輪 | ||
| 備砲 | 0門 | ||
| 材質 | 鉄製 | ||
| 馬力 | 300馬力 | ||
| 写真 | スケッチ | ||
■ 詳細
1864年イギリス・グラスゴーで建造しました。1864年横浜で購入しました。第十四代将軍家茂の遺体を大坂から江戸に運びました。その後も江戸に駐留し、榎本艦隊に参加しました。上野戦争が終結すると上野寛永寺を脱出してきた彰義隊の主将輪王寺宮を迎え入れ、榎本艦隊に先んじて出航。終戦後、官軍が接収。
所属した江戸幕府と、フランス式の軍制改革
この船・長鯨丸を運用したのも、江戸幕府です。幕末の幕府は、陸海軍をフランスの力を借りて立て直そうとしました。
慶応年間、幕府はフランスから軍事顧問団を招いて洋式の伝習隊を編成しました。その調練を受けた大鳥圭介は、幕府瓦解後に伝習隊を率いて北へ転戦し、箱館まで戦い抜きます。長鯨丸も、近代化を急いだ幕府が持った一隻でした。全体像は幕末の軍艦のページへ。
幕末軍艦一覧リスト
原名はダンバートン、買ったのは慶応二年です
この船はイギリスのグラスゴーでウィリアム・デニー社が元治元年に造ったもので、原名をダンバートンといいました。九百九十六トンとも九百六十六トンともされる鉄製の外輪蒸気船です。この記事は1864年に横浜で買ったとしていますが、1864年は建造の年で、幕府が横浜で買ったのは慶応二年八月十二日、値は二十万ドルでした。
将軍の遺体を運んだ航海
徳川家茂が大坂城で亡くなったのは慶応二年七月二十日、二十一歳のときです。遺体は九月二日に大坂を発ち、九月六日に江戸へ着いて、芝の増上寺に葬られました。この航海を担ったのが長鯨丸とされます。ただしこの話は事典の類に見えるもので、ほかの資料で確かめることができませんでしたので、そう伝えられる、という程度にとどめておきます。
輪王寺宮を乗せて、北へ
慶応四年五月十五日の上野戦争のあと、寛永寺を出た輪王寺宮がこの船に乗りました。五月二十三日に品川沖でとする資料と、五月二十五日に羽田沖でとする資料があり、日も場所も定まりませんが、船名についてはどちらも長鯨丸で一致しています。宮は五月二十八日に常陸の平潟へ上がり、磐城平、三春を経て六月六日に会津若松へ入り、七月十二日には白石城で奥羽越列藩同盟の盟主に迎えられました。
そのあと
明治元年八月十九日に品川を出た榎本の艦隊八隻のうち、運送船としてこの船も加わっています。箱館で新政府軍に捕らえられ、のちに民間へ売られて万里丸と名を改め、明治十年代には荷を置くための船として三菱が使いました。
参考資料:Wikipedia日本語版「長鯨丸」、Wikipedia日本語版「幕府海軍」ほか、博物館・自治体の公開資料。資料によって要目や日付が食い違う場合は、本文でその旨を書いています。
同じころの幕府—第一次長州征討
戦わずに終わった征討 長鯨丸を買い入れた元治元年(1864)、禁門の変を起こした長州藩を討つため、幕府は尾張藩の前藩主・徳川慶勝を総督とする軍を広島に集めました。ところが長州藩の中では幕府に従う者たちが力を握り、禁門の変の責任者だった三人の家老に切腹させて恭順を示します。征討軍は戦わずに兵を引きました。
長州の巻き返し 征討軍の参謀として長州の処分をまとめたのは、薩摩の西郷隆盛でした。しかしその年の暮れ、高杉晋作が下関の功山寺で挙兵し、長州の藩論はふたたび幕府と対決する方向へ向かいます。幕府が船を増やしていたこの年は、長州との決着が先送りされた年でもありました。
榎本艦隊では、運送船として数えられています
この船が榎本艦隊に加わったことは本文にあるとおりですが、艦隊の中での位置づけがはっきり分かっています。慶応四年八月十九日に品川沖を出た八隻は、軍艦四隻と運送船四隻に分かれます。軍艦が開陽(旗艦)・回天・蟠竜・千代田形、運送船が長鯨丸・神速丸の蒸気運送船二隻と、咸臨丸・美加保丸の帆走運送船二隻です。
幕府がこの区分を使っていたことには根拠があります。慶応元年二月、軍艦奉行が老中へ出した「軍艦附運送船順序」という伺いで、順動丸・鯉魚門・大江丸の三隻について「素より全く運送船ニて、御備筒も纔に壱弐挺之上を不出、戦争も難出来、御軍艦名目ハ相当不仕候ニ付、以来運送船之名目ニ引直し」と述べています。備砲が一、二門しかなく戦闘に堪えない船は、軍艦の名目から運送船へ引き直す。その線引きです。
長鯨丸は輪王寺宮を乗せて北へ向かいましたが、艦隊の名簿のうえでは戦う船ではなく運ぶ船でした。買値は二十万ドル、横浜での購入です。なお明治五年八月に「萬里丸」と改名されており、肥後藩の万里丸とは別の船です。同じ名が時期をずらして現れるので、紛れやすいところです。

