坂本権平 宛

坂本権平 宛

原文
一筆啓上仕候。寒気節益御安養可被成御座、奉大賀候。降而私儀無異議相暮申候。御安慮可被遣候。扨別紙ニ認候事ども御直ニ御聞被成候得バ、自然近年中御出軍の時も、よ程御心当ニも相成申べく、何卒たれか長崎の方ニ御遣可被成や奉伺候。此頃願上度事ハ古人も在云、国家難ニのぞむの際ニハ必、家宝の甲を分チ、又ハ宝刀をわかちなど致し候事。何卒御ぼしめしニ相叶候品、何なり共被遣候得バ、死候時も猶御側ニ在之候思在之候。何卒御願申上候。御遣しニ相成候時別紙の通の当所に御達可被遣奉願。猶後日之時を期候。恐惶謹言。寅極月四日龍馬尊兄膝下
現代文
一筆書かせて頂きます。最近はますます寒くなってきましたがお過ごしでしょうか。私は
相変わらず元気です。ご安堵して下さいませ。さて、別紙に書いたことなどを直接お聞きになれば、近いうちに(土佐が)兵を出すようなことになったときにも、きっと大きな心づもりになるはずです。どうか誰かを長崎のほうへよこしていただけないでしょうか。このごろお願いしたいことがあります。古人も言うとおり、国家難に臨む際には家宝の兜をわかち(分け与える)、または、宝剣をわかちなどというではありませんか。お気持ちにかなう品を何なりと送っていただければ、死ぬときにもなお兄上のおそばにいる思いがいたします。何とぞお願い致します。もし送って頂けるようなら別紙にある通りの場所までお願いします。くわしいことは、またの折に申し上げます。慶応二年十二月四日(1867年1月9日)坂本龍馬兄上へ

出典:原文は宮地佐一郎編『龍馬の手紙』(講談社学術文庫)によります。現代文は、運営者がこの原文をもとに独自に訳したもので、解説も運営者が書いています。

目次

この手紙について

兄・権平へ宛てた、格式ある候文の手紙です。寒中の見舞いに始まり、別紙に記した事情を直に聞いてほしいこと、近い将来に出軍(戦)の時が来れば備えになろうから、誰か長崎へ人を遣わしてほしいことを願い出ています。国家の難に臨むときは家宝の甲や宝刀を分けるものだと古人を引き、坂本家の助力を求める龍馬の切実さが伝わる一通です。

宛先「坂本権平」とはどんな人物か

龍馬の長兄で坂本家の当主です。父亡きあと家を守り、脱藩した弟をも陰で支え続けました。龍馬は大事のたびに、この兄に家の力を頼んでいます。

この手紙が書かれたころ

来たるべき戦に備え、人も物も整えようと奔走していたころの龍馬です。天下の事に身を投じながらも、その活動は生家の理解と援助にも支えられていました。長州征伐の帰趨が定まり、倒幕へ向けて各勢力が武備を整えはじめていました。やがて訪れる大きな戦に備え、志士たちは兵器や資金の確保に動いていました。土佐藩はなお態度を保留していましたが、龍馬は個人として、また坂本家の力も借りて、次の時代への備えを進めていました。故郷の家が、その活動の隠れた支えとなっていました。

別紙に添えて兄に願った「家宝の刀」のゆくえ

宮地佐一郎編『龍馬の手紙』では「慶応二年十二月四日 坂本権平あて」(四十三番)にあたります。本文の日付は「寅極月四日」で、寅年の十二月を慶応二年とするのは宮地による比定です。同じ日付の「坂本権平、一同あて」(四十二番)には、別紙として龍馬の存念の書き付け、お登勢の手紙、木戸孝允の手紙を送ると記され、末尾に長崎本博多町の小曽根英四郎方で書いたこと、八月からそこを定宿にしていることも見えます。

この願いは聞き届けられました。半年後の権平あて(八十一番、慶応三年六月二十四日)で龍馬は、西郷を通じて送られた「吉行の刀」を京へ出るときも常に帯びていると書いています。京の刀剣家に見せると皆が粟田口忠綱ほどと目利きし、欲しがる人には兄から賜った刀だと誇ったとも伝えており、兄への礼が素直ににじむ一節です。

同じころの土佐と長崎—後藤象二郎の長崎入り

土佐藩の動き 慶応二年(1866)の暮れ、土佐藩の参政・後藤象二郎は藩の商いと軍備の強化のために長崎に入っていました。土佐藩はこの年の二月に藩の殖産と交易を担う開成館を設け、長崎にはその出先を置いて、汽船や武器の買い入れを進めます。後藤はここで、薩長のあいだで名を上げていた同郷の龍馬に目をつけました。

龍馬と兄 兄の権平は、龍馬の脱藩後も坂本家を守り、弟の行く末を案じ続けた人です。この手紙を書いた翌月、龍馬は長崎で後藤と会い、土佐藩との関係を改めることになります。権平にとっても、弟の立場が大きく変わる知らせが届くのは間もなくのことでした。

坂本龍馬の手紙を時代順に読む(一覧の54通目/全135通)

◀ 前の手紙:坂本権平・一同 宛
次の手紙 ▶:桂小五郎 宛

手紙の一覧に戻る / 亀山社中と海援隊 / 海援隊士一覧 / 近江屋跡(現地取材)

坂本龍馬の手紙139通(現代翻訳文)一覧

坂本龍馬の手紙の一覧を見る

  • URLをコピーしました!
目次