伊藤博文と井上馨はなぜ留学を途中でやめたのか——四国連合艦隊の砲撃を止めようとした二人の帰国

ロンドンの下宿で長州の知らせを受け取る伊藤俊輔と井上聞多(イメージイラスト)

文久三年(1863年)にイギリスへ密航した「長州ファイブ」のうち、伊藤俊輔(のちの伊藤博文)と井上聞多(のちの井上馨)の二人は、一年ほどで留学を切り上げて帰国しました。ほかの三人が数年にわたって学び続けたのとは対照的です。

二人はなぜ、命がけで渡ったイギリスを早々に離れたのでしょうか。その理由は、故郷の長州藩が始めた外国との戦いにありました。

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二人が発った直前、長州は外国船を砲撃していました

五人が横浜から密航したのは、文久三年五月十二日の夜でした。そのわずか二日前の五月十日、長州藩は関門海峡を通ったアメリカ商船ペンブローク号を砲撃しています。攘夷の実行でした。

砲撃はその後も続きます。五月二十三日にはフランスの通報艦キャンシャン号、五月二十六日にはオランダの軍艦メデューサ号が撃たれました。これに対して六月一日にはアメリカの軍艦ワイオミング号が、六月五日にはフランス艦隊が報復に来て、長州の軍艦や砲台は大きな被害を受けました。

ロンドンで知った、四国連合艦隊の報復計画

元治元年(1864年)の春、ロンドンにいた伊藤と井上のもとに、イギリス・フランス・アメリカ・オランダの四か国が連合して長州を攻撃しようとしているという知らせが届きました。

二人はこのとき、すでにイギリスの国力を目の当たりにしていました。巨大な工場、張りめぐらされた鉄道、港を埋める蒸気船。このまま戦えば長州は滅びる。攘夷の志士としてイギリスに渡った二人は、そのことを誰よりもよくわかっていたのです。二人は藩を止めるため、留学を切り上げて帰国することを決めました。

横浜で、イギリス公使オールコックと会いました

元治元年六月十日ごろ、二人は横浜に着きました。そこでイギリス公使オールコック、通訳官アーネスト・サトウと会見し、藩主を説得して戦いを避けることを約束します。

イギリス側は二人の申し出を受け入れ、軍艦で瀬戸内海の姫島まで送り届けました。二人はそこから長州へ戻っていきます。

藩は、耳を貸しませんでした

長州に戻った二人は、藩主・毛利敬親をはじめ藩の重役たちに、攘夷をやめて開国に転じるべきだと説いて回りました。しかし藩内では強硬論が大勢を占めており、説得は実りませんでした。

四国連合艦隊の砲撃

元治元年八月五日、イギリス・フランス・アメリカ・オランダの艦隊十七隻が下関への砲撃を始めました。兵は約五千人。長州側も砲台で応戦しましたが、戦いは八月八日までに終わり、砲台は占拠され、大砲は持ち去られました。

講和の席で、伊藤は通訳をつとめました

講和の交渉で長州を代表したのは高杉晋作でした。高杉は家老の養子「宍戸刑馬」を名乗って連合艦隊の旗艦に乗り込み、伊藤はその通訳をつとめました。井上も交渉に加わっています。

講和は八月十八日に成立しました。連合国は賠償金三百万ドルを求めましたが、高杉は攘夷は幕府の命令に従ったものだと主張し、結局この賠償金は幕府に請求されることになりました。

井上を襲った刃――袖解橋の遭難

帰国した二人の立場は、決して安全ではありませんでした。同じ元治元年の秋、藩内で幕府への恭順を唱える一派が力を強めると、それに反対した井上は夜道で襲われ、全身を斬られる瀕死の重傷を負います。

医師の所郁太郎が五十針ほどを縫う手術を行い、井上は一命をとりとめました。苦しさのあまり介錯を頼む井上を、母が血まみれのまま抱きかかえて止めたという話が伝わっています。

早すぎた帰国が、二人を「外交」へ向かわせました

二人の帰国は、戦争を止めるという目的こそ果たせませんでした。しかし、イギリスと直接言葉を交わし、講和の場に立ち会った経験は、その後の二人の道を決めることになります。

伊藤と井上は長州藩の外国との交渉を任されるようになり、やがて伊藤は初代内閣総理大臣に、井上は外務卿・外務大臣になりました。一年ほどで終わった留学は、二人を明治日本の外交と政治の中心へと押し出したのです。

ゆかりの地

  • みもすそ川公園(山口県下関市):関門海峡に面し、下関戦争で使われた長州砲の複製が並んでいます。
  • 前田砲台跡(山口県下関市):四国連合艦隊に占拠された砲台の跡です。
  • 井上公園(山口市湯田温泉):井上馨の生家の跡地に設けられた公園です。

五人全体については「長州ファイブとは」、ロンドンに残った三人については「山尾庸三とは」などの記事で紹介しています。

情報源について

この記事は、ウィキペディア「下関戦争」「伊藤博文」「井上馨」「長州五傑」などを参照して構成しました。袖解橋での井上の母の話など、逸話として伝わる部分は「伝わる」と表現しています。

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